笑顔をください。3/6.
閉演間近の園内、片手に風船の紐を握り、色の無い、影の無い世界が目の前に広がる
人気のまばらな園内に立ち尽くす豚。
そんな豚の方へ駆け寄って来る女の子、その少し後ろで女の子の背をじぃと見つめ
立つ女性……
街灯や月の光が、豚のプラスチックで出来た瞳に映りキラキラと輝いて見える
しかしその奥の瞳にはそんなキラキラや色も無い。
寂しい世界が、夜空が静かに音もなく広がっている。
と、そんな豚の前で、はぁはぁと息を切らし足を止める女の子。
じっとしたまま人形のように動かない豚を見上げ暫くすると……
栞 「……ねぇ、豚さん?」
と、そんな女の子の声が聴こえ視線を落とすと、目の前の豚の自分を心配そうに見上げる女の子
豚 「……? 」
栞 「豚さん、どうしたの?」
豚 「え……?」
栞 「豚さん、泣いてるの?」
豚 「泣いてる……?」
栞 「目がキラキラして泣いてるみたい……」
豚 「……」
栞 「ちょっと待って……」
と、言うとポケットから小さなハンカチを掴みそのまま豚の方へ差し出す女の子
その小さな手に握られた、可愛いキャラクターのプリントがされたハンカチを見つめると
女の子のキラキラでまん丸で真っ直ぐな目に視線を上げ
豚 「え…… ハンカチ?僕に?」
栞 「うん。泣いてるでしょ? 泣いたらみんな心配するよ。」
豚 「……僕、泣いてないよ……」
栞 「泣いてる。だって、目がキラキラしてるもん…… 」
豚 「キラキラ…… 」
そうか、自分以外の人には色があるんだ。プラスチックの目に光が反射して、そんな風に見えるのかな
と、心の中で呟くと……
栞 「豚さん、どうしたの?」
豚 「え? いや、どうもしてないよ……」
栞 「してる。声も泣いてる」
豚 「声が…… 泣いてる? そんな事ないよ。そう、もう遊園地がおしまいの時間だから、
みんなとバイバイしなければいけないのが寂しいだけだよ……」
栞 「豚さんも一人なの?」
豚 「豚さんもって……」
その女の子の声に、その後ろでじっと目の前の女の子をの背を見つめる女性の方へ視線を向ける豚。
栞 「……」
豚 「君は、一人じゃないでしょ? ママと一緒でしょ?」
栞 「……今は一緒だけど、バイバイしなきゃいけないの。」
豚 「え…… どうして? ママ、今どっか行っちゃうの?」
栞 「お仕事。だから、毎日会えないの。パパもずっと帰ってこないし、ママもたまに逢えるけど……」
豚 「……今日は、その日なんだ?」
栞 「うん。でも、もっと一緒に居たい……」
豚 「…..うん。」
栞 「豚さん…… 豚さんは一人になったら寂しい?」
豚 「うん。寂しいよ…… でも、だからまたここに来るんだよ。ここに来たらみんな楽しそうにしてるでしょ?
そんなみんなの顔見ていたら、全部忘れられるから…… 嫌な事も悲しい事も。全部。この風船をあげるとね
みんなにっこり笑ってくれるんだ。この風船には、魔法がかけてあってね、
貰った人はみんな笑顔になっちゃうんだよ。」
栞 「凄いね。それなのにどうして豚さんは泣いてるの?」
豚 「……」
栞 「みんなに魔法の風船あげちゃうから? 無くなっちゃうから?」
豚 「んんん。嬉しいからかな。」
栞 「嬉しいのに泣くの?」
豚 「うん。そう。笑顔の涙だよ。」
栞 「……?」
その豚の声に、首をかしげる女の子。と、後ろで見つめていた女性が
母 「栞? 豚さんに風船貰って早く帰ろう!」
と、ママの方へ振り返ると小さくうなずき、またすぐに豚の方へ視線を戻し、キラキラした目を
何も言わず見つめる女の子
栞 「……」
豚 「これ、最後の一個。君にあげる。」
と、女の子の視線に合わせ、かがむと風船の紐を掴んだ手をのばしそう言う豚。
栞 「……」
豚 「ほら、飛んで行かないように掴んで。」
と、豚の目を暫くじぃと見つめると、手を伸ばさずにっこりと微笑む女の子。
栞 「……」
豚 「 ? 」
栞 「要らない。」
豚 「え? どうして?」
栞 「豚さんにあげる。栞、もうちょっとママと一緒にいれるから……」
豚 「……え……」
そう言うと、豚に手を振り、女性の方へ振り返り駆けて行く女の子、
そんな女の子の背をかがんだままじぃと見つめる豚。
母 「栞? 風船は?」
栞 「要らない。ママともうちょっと要れるから良い。」
そう言うと、豚の方へ振り返り笑顔で手を振り、女性の手をぎゅうと握り
豚の前から去っていく女の子。
その小さな背を見つめ、心が少しあたたかくなる豚。
と、それまで色の無かった豚の目に映る世界の街灯の灯りが、ぼんやりとオレンジ色の光を放ち始める。
豚 「……」
つづく……
こんばんは。
今日はまた遅くなってしまいました。
今日は朝からバタバタとしていた為。申し訳ありません。
今日の紡ぎは、また長くなってしまいました。
皆さんのあたたかい声、ありがとうございます。
どうか明日も良い一にでありますように
あたたかい風がそっと心に吹きますように
また明日
紡ごう。
Have a Great Tomorrow and may a good wind blow all over the world.
See you Tomorrow.
Akihiro Takahashi
コメント
あたたかい交流や出会いをきっかけに、見える世界の色が以前より鮮やかに感じるようになるって、ほんとにあるなぁと思います。
寂しげだった豚さんの心が、少しずつ開かれて行くといいな… アキさん今日もお忙しい中、素敵な投稿をありがとうございました😌
豚さんのこの丸っこい後頭部を見るだけで
私の心はシアワセ色に染まります☺︎
何気ない日常の中に小さな幸せがいくつもありますよね
人と比べるのではなく、自分の心が喜ぶ事を大切にしていきたい
今週もアキさんありがとうございます😊