Please smile 4/6.

笑顔をください。4/6.

女性と手を繋ぎ去っていく女の子、膝を折りかがんだまま
女の子の背を見つめていると、それまで豚の目に映っていた白黒の世界が、その世界の街灯のオレンジが
ロウソクの灯をともした時の様に、ぼんやりと空気に滲んでいく様に
灯りだす。
と、ゆっくりと立ち上がり周りのオレンジを見回す豚……

豚　「……灯りが……　街灯の灯りが灯った。でも、それ以外はまだ色が無い…… どうしてだろう？　急に…… 」

と、夜空に浮かぶ真ん丸な月を見上げるが

豚　「やっぱり駄目だ。月は白黒だ。周りの乗り物の光も色が無い……　街灯のオレンジ色だけが、僕の目に映る世界に生き返った。」

と、豚の見上げる晴れた夜空に、ごぉぉと低い音を空に響かせ、光を点滅させながら
飛行機が通り過ぎていく……

豚　「どこに行くのかな、あの飛行機…..　外国かな、それとも帰ってくる途中かな……　
　　いつの間に世界の色が消えて、いつの間にか街灯のオレンジ色だけが生き返った。
　　今、風は吹いてるのかな？　早く脱ぎたいな……　これ……
　　　この豚の着ぐるみのせいで、こんな風に見えてるだけだったりしないかな……
　　　これを脱いでも、世界の色は街灯のオレンジ色だけなのかな…… 風は気持ちがいいかな
　　　吹いてるかな……　」

と、空を見上げ立ち尽くしていると、その後ろから豚の肩をポンポンと優しく叩く手


豚　「……あ？」

慌てて我に返り、後ろを振り返る豚。と、そこに優しい笑顔で豚を見つめ立つ老女の姿
一人で遊園地に来るような年齢には見えず、孫を連れてやって来たのか、しかし周りにそれらしき子供の姿は見当たらない。
と、その老女が、豚の表情を見て

老　「……あれ？　あなた豚さんだったのねぇ……　私の家で飼っていた豚にそっくり、ふふっ……」
豚　「えっ……　あ、えっと……」
老　「あ、ごめんなさいね。振り返ったらこんなおばぁだったから驚かせちゃったわね……」
豚　「あ、いや、そうじゃなくて。すみません。」
老　「え？　どうして謝るの？」
豚　「風船ですよね？」
老　「え？　くれるの？　こんなおばあでも……」
豚　「あ、いや、それが…… 小さなお子さんにしか配ってはいけない決まりで……」
老　「ふふっ……　良いのよ、それが目当てじゃないんだから……」
豚　「えっ？　じゃあ……」
老　「今ね、賭けをしていたの……」
豚　「賭け…… ですか？」
老　「そう。賭けをね。ふふっ……」
豚　「はぁ…….」

と、首をかしげる豚、そんな豚に

老　「私ね、此処の遊園地が出来た頃、まだ学生だったの、その頃初めて出来た恋人に連れてきてもらったの
初デートで…… 今ではもうこんなおばぁだけど、その頃はまだ可愛かったんだから…..」
豚　「初デートですか……」
老　「そう。思い出の場所なのよ……」
豚　「そうだったんですね……」
老　「その人もう一昨年亡くなってしまったんだけどね、今でもその頃と同じように、こうして時たまデートしに来るの。」
豚　「……もしかして、その初デートの恋人って、ご主人ですか？」
老　「正解。賭け事が好きな人でね、でもお金を使う賭け事ではなく、二人で小さな賭け事をするの。今みたいに」
豚　「今、ですか……？」
老　「今は、あなたが何の動物か当てる賭け……」
豚　「何の動物か、ですか……」
老　「うん。そう。でも私の負け、私あなたが犬の着ぐるみに見えたの。ほらもうこんなおばあだし目も悪いからね、
　　でもきっと主人なら当ててたに違いないと思うの。だからこの賭けは私の負け…… あぁ悔しい。」
豚　「……一人で、賭け、ですか……」
老　「そう。一人だけど、一人じゃないから。私の心の中では今でもずっと笑ってるの。傍でね……　ふっ」
豚　「……負けたら何かあるんですか？　罰は……」
老　「なぁんにもない。勝った方が笑うだけ。負けたら悔しいだけ。でもどっちも笑顔なの。」
豚　「……素敵ですね……」
老　「全然そんな事ないわよ。これが私達のあたりまえだから……　あ、ごめんなさいね私たちの賭けに巻き込んでしまって……　」
豚　「いや、巻き込まれたなんて、今のお話聞いて心がポッとしました。」
老　「ふっ。そのキラキラした目の奥の本当の目も奇麗なんでしょうね……　おばぁの相手してくれてありがとうね。
　　また見掛けたら、次は風船こっそりちょうだいね？　くれるかくれないかの賭けをするから……　
　　ふふっ。じゃあ頑張ってね奇麗な目をした豚さん……」

と、言うと、にっこりと微笑み去っていく老女、その老女の後ろ姿
をじぃと見つめていると、その横に笑いながら並んで歩くご主人の姿が、豚の目には透けて見えた。

豚　「……あったかい……」

つづく
Hello,How are you doing today?
I hope you have a Great Weekend.
May a good wind blow all over the world.
See you Tomorrow……

今日もありがとうございました。
どうか皆さんの週末があたたかく穏やかな時間でありますように
優しい風が吹きますように
また明日
紡ごう

Akihiro Takahashi